個人事業で利益が増えてくると、一度は考えるのが「このまま個人事業主でいいのか、それとも法人にした方がいいのか」という問題です。
ネットで調べると、
- 売上1,000万円を超えたら法人化
- 法人税の方が安いから法人がお得
- 法人は社会保険が高いから個人事業主の方がお得
など、いろいろな情報が出てきます。
ただ、個人的には「売上」だけを基準に法人化を考えるのは少し違うと思っています。
見るべきなのは売上ではなく、経費を差し引いた後にどれくらい利益が残っているか。
そして、毎年ある程度安定して800万円〜1,000万円ほどの利益が残るようになっているのであれば、個人事業主のまま続けるだけではなく、「1人法人」をかなり真剣に検討してもいい水準だと考えています。
今回は2026年時点の税率や社会保険料を確認しながら、なぜそう考えるのかを整理してみます。
※この記事は税理士による税務相談ではなく、制度をもとにした一般的な考え方をまとめたものです。税額や社会保険料は年齢、家族構成、居住地、各種控除、役員報酬、法人所在地などによって変わります。記事内のシミュレーションはあくまで概算・想定としてご覧ください。
- 先に結論|利益800万〜1,000万円なら1人法人を検討したい
- そもそも「売上1,000万円だから法人化」は違う
- 個人事業主は利益が増えるほど所得税率も上がっていく
- 個人事業主は国民健康保険も高くなってくる
- 法人化すると「会社」と「自分」にお金を分けられる
- 役員報酬には給与所得控除がある
- 利益1,000万円ならこんな考え方ができる
- ただし法人化すると社会保険の負担は増える
- それでも利益800万〜1,000万円なら法人を考えたい理由
- 法人税は「15%だから安い」ではない
- 法人は赤字でも最低限の税金がかかる
- 利益800万円と1,000万円では法人化の魅力も違う
- 全部自分で使うなら法人化のメリットは小さくなる
- 「法人化=節税」だけで考えない方がいい
- まとめ|利益800万〜1,000万円なら「1人法人」という選択肢を一度計算してみる
- 参考資料
先に結論|利益800万〜1,000万円なら1人法人を検討したい
先に結論を書くと、私は年間800万〜1,000万円ほどの利益が安定して出るのであれば、1人法人を検討した方がいいと考えています。
もちろん、
- 800万円を超えた瞬間に法人の方が必ず得になる
- 1,000万円なら絶対に法人化すべき
という単純な話ではありません。
法人化すると社会保険への加入が原則必要になり、法人住民税の均等割や税理士費用、法人の申告・事務コストなども増えます。
それでも利益800万〜1,000万円クラスになってくると、個人事業主として利益のほぼ全額を自分の所得にする方法以外の選択肢を持てることが大きくなってきます。
そもそも「売上1,000万円だから法人化」は違う
法人化を考えるときによく出てくるのが「売上1,000万円」という数字です。
しかし、法人化するかどうかを税負担という観点から考えるのであれば、売上だけを見てもあまり意味がありません。
たとえば、同じ売上1,500万円でも、
- 経費500万円 → 利益1,000万円
- 経費1,200万円 → 利益300万円
では状況がまったく違います。
法人化を考えるときに重要なのは「売上」より「利益」。
この記事では、経費を差し引いた後の事業利益が年間800万〜1,000万円程度あるケースを想定しています。
個人事業主は利益が増えるほど所得税率も上がっていく
個人事業主の場合、事業で得た利益は基本的に自分自身の所得になります。
所得税は累進課税なので、課税所得が増えるほど高い税率が適用されます。
2026年分の所得税率は以下のようになっています。
| 課税所得 | 所得税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
さらに所得税だけではなく、住民税や国民健康保険料、国民年金などもあります。
ここで注意したいのは、「利益1,000万円だから1,000万円全部に33%かかる」という意味ではないことです。
所得税は超過累進税率なので、税率が上がった部分について高い税率が適用されます。また実際には青色申告特別控除や基礎控除、社会保険料控除、扶養控除などを差し引いて課税所得を計算します。
それでも利益が大きくなるにつれて、個人に所得を集中させ続けることの税負担は無視できなくなってきます。
個人事業主は国民健康保険も高くなってくる
もうひとつ忘れてはいけないのが国民健康保険です。
国民健康保険料は自治体によって異なりますが、参考として岡崎市の2026年度を見ると、所得割は次のようになっています。
- 医療保険分:7.17%
- 後期高齢者支援金等分:2.45%
- 子ども・子育て支援金分:0.23%
- 介護納付金分:2.34%(40〜64歳)
これに均等割・平等割も加わります。
もちろん上限額があるため所得に対して永遠に増え続けるわけではありませんが、利益800万〜1,000万円クラスになると決して小さな金額ではありません。
国民年金についても、2026年度は月額17,920円、年間215,040円です。
法人化すると「会社」と「自分」にお金を分けられる
ここが1人法人を考えるうえで一番大きなポイントだと思っています。
個人事業主の場合、事業の利益は基本的に自分自身の所得です。
しかし法人にすると、法人と自分は別人格になります。
たとえば、役員報酬を年600万円に設定したとします。
事業から1,000万円程度の利益を生み出せるとしても、全部を自分の給与として受け取る必要はありません。
会社から自分へ必要な役員報酬を支払い、それ以外は法人に利益として残す。
という考え方ができるようになります。
これは単純な「節税テクニック」というより、事業のお金と自分の生活費を明確に分けられることが重要だと思っています。
役員報酬には給与所得控除がある
法人から受け取る役員報酬は給与所得になります。
給与所得には「給与所得控除」があります。
2026年の制度では、たとえば年収600万円の場合、給与所得控除は概算で、
600万円 × 20% + 44万円 = 164万円
となります。
つまり600万円の給与を受け取ったからといって、600万円全額がそのまま給与所得になるわけではありません。
給与所得は概算で436万円となり、そこからさらに基礎控除や社会保険料控除などを差し引いて課税所得を計算します。
年収800万円なら給与所得控除は、
800万円 × 10% + 110万円 = 190万円
です。
個人事業主と法人では単純比較できませんが、利益が大きくなると、この給与所得控除を利用できることも法人化を検討する理由のひとつになります。
利益1,000万円ならこんな考え方ができる
かなり単純化しますが、法人化前の事業利益が年間1,000万円程度あるとします。
そこで自分への役員報酬を年間600万円(月50万円)に設定した場合、考え方としては、
- 自分は法人から年間600万円の給与を受け取る
- 法人は役員報酬600万円を費用として計上する
- さらに法人負担分の社会保険料等を支払う
- それらを差し引いた残りが法人側の利益になる
という形になります。
つまり、事業で稼いだ1,000万円すべてを自分個人の所得にする必要がないわけです。
残した資金は、
- 設備投資
- 広告費
- 外注費
- 新規事業
- 将来の運転資金
- 売上が落ちたときの備え
など、会社のお金として蓄えておくことができます。
個人的には、利益800万〜1,000万円になってきたときの法人化は、単純な税金の差よりこの「お金を会社に残せる仕組み」の方が重要だと思っています。
ただし法人化すると社会保険の負担は増える
法人化のメリットばかりではありません。
1人法人であっても、法人から役員報酬を受け取る場合は、原則として健康保険・厚生年金への加入が必要です。
2026年度の協会けんぽ愛知支部の場合、主な保険料率は、
- 健康保険:9.93%
- 厚生年金:18.3%
- 子ども・子育て支援金:0.23%
- 介護保険:1.62%(40〜64歳)
となっています。
健康保険・厚生年金などは基本的に会社と本人で折半します。
「会社が半分払ってくれるからお得」と考えるのは1人法人では少し違います。自分の会社なので、会社負担分も含めれば結局は自分の事業から出ていくお金です。
たとえば役員報酬600万円なら、標準報酬月額の区分などによって実額は変わりますが、健康保険・厚生年金等について本人負担+法人負担を合わせれば年間170万円前後になるイメージです。
40〜64歳で介護保険の対象なら、さらに負担が増えます。
そのため「法人化すれば税金が安くなるから絶対得」ではありません。
それでも利益800万〜1,000万円なら法人を考えたい理由
では社会保険が増えるのに、なぜ私は利益800万〜1,000万円なら法人化を検討した方がいいと考えるのか。
理由は、ひとつの税金だけではなく全体を設計できるようになるからです。
- 法人 役員報酬を自分で設計できる
- 法人 給与所得控除が利用できる
- 法人 会社に利益を残せる
- 法人 事業資金と生活費を分けやすい
- 法人 厚生年金になる
- 法人 将来の投資資金を法人内に蓄積できる
利益300万円、400万円の段階なら、法人を維持するコストや事務負担の方が気になるケースも多いでしょう。
しかし毎年800万円、900万円、1,000万円と利益が残り続けるのであれば、個人事業主として全部を自分の所得にし続ける方法だけで本当にいいのかは、一度考えた方がいいと思います。
法人税は「15%だから安い」ではない
ここもよく誤解されるところです。
資本金1億円以下など一定の中小法人では、所得800万円以下の部分について法人税の軽減税率15%が適用されます。
そのため、
個人の所得税は23%や33%。
法人税は15%。
だから法人の方が圧倒的に得。
という説明を見かけることがあります。
しかし、これはかなり雑な比較です。
法人には法人税だけでなく、法人住民税、法人事業税などもあります。
さらに役員報酬を支払えば、個人側には所得税・住民税・社会保険料も発生します。
法人化の判断を「所得税率 vs 法人税率」だけで比較してはいけません。
重要なのは、法人と個人を合わせたトータルの負担と、法人にどれだけ資金を残したいかです。
法人は赤字でも最低限の税金がかかる
法人化すると、利益がなくても法人住民税の均等割が発生します。
たとえば岡崎市にある資本金1,000万円以下・従業員50人以下の法人では、法人市民税の均等割が年5万円。
愛知県の法人県民税均等割は、資本金等1,000万円以下なら年21,000円です。
つまりこのケースなら、赤字でも原則として年間71,000円程度の均等割が発生します。
さらに法人決算、申告、給与計算、社会保険手続きなど、個人事業主より事務負担も確実に増えます。
利益800万円と1,000万円では法人化の魅力も違う
私なら、おおまかな目安をこんなイメージで考えます。
| 年間利益の目安 | 考え方 |
|---|---|
| 〜500万円程度 | 個人事業主のままでも十分検討余地あり |
| 500万〜700万円程度 | 状況によって法人化を検討 |
| 800万円前後 | 法人化を本格検討 |
| 1,000万円前後 | 1人法人をかなり検討したい |
※これは税法上の「法人化すべき基準」ではありません。事業形態や役員報酬、年齢、扶養、社会保険、他の所得などによって有利不利は変わります。
特に利益800万〜1,000万円が一時的ではなく、今後も継続する見込みがあるかは重要です。
たまたま今年だけ1,000万円利益が出たのと、毎年1,000万円前後を安定して残せる事業では意味が違います。
全部自分で使うなら法人化のメリットは小さくなる
ここも重要です。
法人化して会社に利益を残せるといっても、最終的にそのお金をすべて個人の生活費として使いたいのであれば、法人化のメリットは小さくなります。
法人のお金は社長個人のお金ではありません。
自由に私生活へ使えるわけではないため、毎年の利益をほぼすべて生活費として使う人と、会社に数百万円ずつ残していける人では、法人との相性が違います。
1人法人と相性がいいのは、生活に必要な給与を取りつつ、残りを事業資金として会社に蓄積していける人。
「法人化=節税」だけで考えない方がいい
法人化というと、どうしても「節税できるか」という話になりがちです。
もちろん税負担は重要です。
でも事業を長く続けるなら、
- 自分はいくら給与を取るのか
- 会社にいくら残すのか
- 設備投資へいくら回すのか
- 広告や人材へいくら投資するのか
- 売上が落ちても何年耐えられる会社にするのか
という考え方の方が大事だと思います。
個人事業主の延長で「稼いだ金=全部自分のお金」と考えるのではなく、会社をひとつの財布として育てていく。
利益800万〜1,000万円クラスになってくると、法人化の意味はそこにもあると思います。
まとめ|利益800万〜1,000万円なら「1人法人」という選択肢を一度計算してみる
個人事業主か法人か。
結局のところ、全員に共通する正解はありません。
ただし、年間の事業利益が800万〜1,000万円程度まで成長し、それが今後も継続しそうなのであれば、「面倒だから個人事業主のままでいい」と何も計算せず続けるのは少しもったいないと思います。
法人化すれば社会保険負担や事務コストは増えます。
その一方で、
- 役員報酬として必要額を受け取る
- 給与所得控除を利用する
- 残りを会社に残す
- 法人と個人に所得を分ける
- 会社のお金を次の事業へ投資する
という選択肢が生まれます。
利益800万〜1,000万円を安定して出せるようになったら、「節税できるか」だけではなく、「これから事業のお金をどう残し、どう使うか」という視点で1人法人を検討してみる価値は十分ある。
個人的には、この水準まで利益が出ているのであれば、少なくとも一度は税理士などに「個人事業主のまま」と「1人法人+役員報酬」の両方でシミュレーションしてもらった方がいいと思います。

