WEB制作の仕事をしていると、こんな支払い条件を見かけます。
「月末締め、翌月末払い」
「月末締め、翌々月末払い」
「検収後、翌月末払い」
そして入金された金額を見ると、
請求額から振込手数料が引かれている。
昔から企業間取引では珍しくない光景です。
でも2026年現在、
「昔からこうだから」という理由だけで、その支払い条件が何でも認められるわけではありません。
2026年1月1日、これまでの「下請法」が改正され、中小受託取引適正化法、通称「取適法」として施行されました。
発注側と受注側の取引を適正化するため、対象範囲や支払いルールなどが見直されています。
WEB制作会社、デザイナー、プログラマー、動画制作者、広告制作会社など、受託で仕事をしている人にも関係する可能性があります。
今回は法律を細かく解説するのではなく、
- 制作費はいつまでに払う必要がある?
- 翌々月払いは問題ない?
- 振込手数料を引かれてもいい?
- 値上げを相談しても無視されたら?
- 発注後に値下げされたら?
といった、WEB制作の現場で気になるところに絞って整理します。
- そもそも「取適法」とは?
- WEB制作も取適法に関係する?
- フリーランスなら必ず取適法?
- 一番気になる「支払いはいつまで?」
- 「請求書が届いていないから払わない」は?
- 月末締め翌月末払いは?
- じゃあ「月末締め翌々月払い」は?
- 「検収が終わってから60日」ならいい?
- 支払いが遅れたらどうなる?
- 振込手数料を制作側から引くのは?
- 「振込手数料は御社負担で」と言われたら?
- 「発注後に値下げ」は?
- 「今回は予算ないからこの金額で」はどうなる?
- 値上げ要求を全部受け入れないと違反?
- WEB制作は数年前よりコストが上がっている
- 価格交渉は「お願い」だけではなくなってきた
- 手形払いも禁止された
- 2026年9月にも「支払い適正化」が改めて要請された
- なぜ「60日」なのか?
- 大企業だから支払いが遅くても仕方ない?
- 発注内容も明示する必要がある
- WEB制作こそ発注内容を残した方がいい
- 「請求書に書いてあるからOK」ではない
- 受注側も支払い条件を最初に確認する
- 「御社の支払サイトは?」を聞いていい
- 取適法対象外なら何をされても仕方ない?
- 法律を武器にケンカする必要はない
- 問題が解決しない場合は相談窓口もある
- 受注側は「売上」だけでなく「回収」まで見る
- 安い案件+遅い支払いは二重にきつい
- まとめ|「企業間だから支払いは遅くて当たり前」ではない
- 参考:公式情報
そもそも「取適法」とは?
取適法とは、正式には「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。
かなり長い名前です。
通称として「取適法(とりてきほう)」が使われています。
2025年5月に改正法が成立・公布され、2026年1月1日から施行されています。
以前は「下請代金支払遅延等防止法」、一般には下請法と呼ばれていました。
今回の改正では言葉も変わっています。
- 親事業者 → 委託事業者
- 下請事業者 → 中小受託事業者
- 下請代金 → 製造委託等代金
「親」「下請」という上下関係を前提にしたような名称から変更されています。
WEB制作も取適法に関係する?
可能性があります。
取適法では、プログラムなどの情報成果物作成委託や、一定の役務提供委託も対象になります。
WEB制作の仕事でも、契約内容や発注者・受注者の規模などによって対象になる場合があります。
ただし「WEB制作の外注なら全部取適法」という意味ではありません。
取適法の適用対象は、
- どのような仕事を委託したか
- 発注側の資本金
- 受注側の資本金
- 従業員数
などによって決まります。
2026年の改正では、従来の資本金基準だけではなく従業員数基準も追加されています。
そのため以前は対象外だった取引が、新たに対象になるケースもあります。
フリーランスなら必ず取適法?
これも「必ず」ではありません。
フリーランスとの取引については、2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法もあります。
取適法とフリーランス法の両方に関係する取引もあります。
政府広報では、中小受託事業者がフリーランスにも該当し、両方の法律に違反する行為があった場合は、原則としてフリーランス法が優先適用されると説明されています。
つまり、
「個人だから法律は関係ない」という話でも、「フリーランスなら全部取適法」という話でもありません。
実際の適用関係は取引内容によって確認する必要があります。
一番気になる「支払いはいつまで?」
取適法の対象となる取引では、委託事業者は代金の支払期日を、
給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間
で設定する義務があります。
WEB制作で考えるなら、成果物の受領日などが基準になります。
ここで重要なのは、単純に、
「請求書を出してから60日」
ではないことです。
「請求書が届いていないから払わない」は?
取適法上の支払期日は、基本的に請求書を受け取った日を基準にするものではありません。
対象取引では、給付の受領日から60日以内のできるだけ短い期間に支払期日を定めます。
もちろん実務では請求書が必要な会社もあります。
ただ、請求書の社内処理を理由に、法律上の支払期日を自由に後ろへ延ばせるというものではありません。
月末締め翌月末払いは?
これは企業間取引ではよくあります。
たとえば9月10日に納品・受領され、9月末締め、10月末払いなら、おおむね受領から50日程度です。
取適法の対象取引であれば、具体的な条件を確認したうえで60日以内かどうかを見ることになります。
ただし法律は、単に「60日以内なら何でもいい」ではなく、できる限り短い期間内に支払期日を設定するよう求めています。
じゃあ「月末締め翌々月払い」は?
ここは注意が必要です。
たとえば9月1日に成果物を受領して、
「9月末締め、11月末払い」
なら、受領から支払いまで約90日あります。
取適法の対象取引であれば、受領後60日以内というルールに収まらない可能性があります。
会社の経理ルールが「翌々月末」だからといって、法律上の支払期限まで自動的に延びるわけではありません。
「検収が終わってから60日」ならいい?
ここも勘違いしやすいところです。
発注側が、
「うちの検収に1か月かかります」
と言えば、その分だけ支払いを後ろへずらせる。
という単純な話ではありません。
取適法では給付の受領を基準として支払期日を考えます。
社内の検収作業を長く設定することで、実質的に支払いを先延ばしする運用には注意が必要です。
支払いが遅れたらどうなる?
取適法の対象取引で支払いが遅延した場合、委託事業者には遅延利息の支払義務があります。
公正取引委員会によると、給付を受領してから60日を経過した日から実際に支払う日まで、年率14.6%の遅延利息を支払う義務があります。
「数日遅れただけだから問題ない」とは限りません。
振込手数料を制作側から引くのは?
WEB制作ではこれもよくあります。
請求書に、
「制作費 100,000円」
と書いた。
でも実際の入金は99,340円。
確認すると振込手数料660円が引かれている。
昔から普通に行われてきた取引慣行です。
しかし取適法の対象取引では事情が違います。
発注時に決めた代金から振込手数料を差し引き、受注側に負担させることは「代金の減額」に当たり、禁止対象となります。
しかも政府広報では、受注側との合意があったとしても、振込手数料を受注側に負担させて代金から差し引く行為は減額に当たると説明されています。
「振込手数料は御社負担で」と言われたら?
取適法の対象取引であれば、従来の慣習だからというだけでそのまま認められるものではありません。
請求額100,000円なら、原則として100,000円が支払われるという考え方です。
銀行へ支払う振込手数料は、支払いを行う側が負担します。
数百円の話ですが、毎月何十社とも取引する事業者なら年間ではそれなりの金額になります。
「発注後に値下げ」は?
たとえば50万円でWEBサイト制作を受注した。
納品後に、
「予算が厳しくなったから45万円にして」
と言われる。
取適法では、委託事業者が発注後に製造委託等代金を減額する行為は禁止されています。
協賛金など別の名目にして差し引く場合も含まれます。
もちろん仕様変更など、実際の取引条件が変わった場合は事情が異なります。
単純に発注側の都合で、決めた代金を後から下げるという話です。
「今回は予算ないからこの金額で」はどうなる?
価格そのものについても2026年の改正で重要な変更があります。
取適法では、新たに、
協議に応じない一方的な代金決定
が禁止されています。
たとえば制作側が、
「人件費やソフトウェア費が上がっているため、次回から価格について相談したい」
と申し出た。
それに対して発注側が、
「うちはずっとこの金額だから」
と協議自体に応じず、一方的に価格を決める。
取適法の対象取引では、こうした対応が問題になる可能性があります。
値上げ要求を全部受け入れないと違反?
ここは違います。
受注側が「10万円値上げしてほしい」と言ったら、発注側が必ず10万円上げなければならない、という法律ではありません。
重要なのは協議です。
発注側が受注側から価格協議を求められたのに、話し合いへ応じず、必要な説明もせず一方的に価格を決定することが問題になります。
「値上げを必ず認めろ」ではなく、「価格を一方的に押し付けるな」という考え方です。
WEB制作は数年前よりコストが上がっている
WEB制作はデジタルだから原材料費がかからない。
そう思われることがあります。
でも実際には、
- 人件費
- Adobeなどのソフトウェア
- AIツール
- サーバー
- クラウドサービス
- セキュリティ対応
- 外注費
など、さまざまなコストがあります。
さらにWordPress、PHP、ブラウザ、セキュリティ、SEOなどの環境も変わり続けます。
5年前と同じ仕事内容に見えても、維持するためのコストが同じとは限りません。
価格交渉は「お願い」だけではなくなってきた
受注側が値上げを言い出しにくい。
これは昔からあります。
「仕事を切られたら困る」
「他に安い会社があると言われそう」
「長年の取引だから言いづらい」
特に一社への依存度が高いほど交渉しにくくなります。
今回の法改正には、こうした力関係の中でも適正な価格転嫁を行いやすくする狙いがあります。
手形払いも禁止された
WEB制作の小規模案件ではあまり見ないかもしれませんが、2026年の改正では手形払いも大きく変わっています。
取適法の対象取引では、2026年1月1日以降の発注について手形による支払いが禁止されています。
電子記録債権や一括決済方式についても、支払期日までに代金相当額の現金を得ることが困難なものは問題になります。
発注した側の支払いが完了したように見えても、受注側が実際に現金を受け取るのが何か月も後なら、資金繰りの負担は残るからです。
2026年9月にも「支払い適正化」が改めて要請された
取適法は1月に施行されて終わりではありません。
中小企業庁と公正取引委員会は2026年9月にも、サプライチェーン全体での支払い適正化について事業者団体などへ改めて要請しています。
さらに2027年4月1日からは、取適法の対象外となる一定の製造委託等についても、独占禁止法上の新しい「支払告示」が施行される予定です。
企業間取引全体で、長すぎる支払いサイトを見直す方向へ進んでいます。
なぜ「60日」なのか?
受注側から見ると、納品した時点で仕事は終わっています。
でも入金が2か月、3か月先なら、その間の費用は受注側が立て替えることになります。
給与。
外注費。
ソフト代。
家賃。
税金。
これらは入金を待ってくれません。
支払いが遅いということは、実質的に受注側が発注側の資金繰りを支えている状態にもなります。
大企業だから支払いが遅くても仕方ない?
「大企業は経理処理があるから翌々月払い」
という話も聞きます。
確かに企業によって社内の承認フローは違います。
でも取適法の対象取引なら、社内事情とは別に法律上の支払期日を守る必要があります。
発注側の承認処理が複雑だから受注側への支払いを遅らせていい、という仕組みではありません。
発注内容も明示する必要がある
取適法では支払いだけではなく、発注時の情報についてもルールがあります。
委託事業者には、発注時に、
- 給付の内容
- 代金額
- 支払期日
- 支払方法
などを、書面または電磁的方法で明示する義務があります。
2026年の改正では、受注側の承諾がなくても電子メールなどによる明示が可能になっています。
WEB制作こそ発注内容を残した方がいい
WEB制作は、
「ここもちょっと直して」
「これもついでに」
が増えやすい仕事です。
口頭だけで進めると、最初に何をいくらで受けたのか分からなくなります。
法律のためだけではなく、
- 制作範囲
- 修正回数
- 納期
- 金額
- 支払日
- 追加作業の扱い
は、メールや見積書などで残しておいた方が安全です。
「請求書に書いてあるからOK」ではない
受注側が請求書へ、
「お支払い:翌月末」
と書いているだけでは、発注条件を整理したことにはなりません。
本来は発注時点で、仕事内容と金額、支払い条件を双方で確認しておく方がいいでしょう。
仕事が終わってから支払い条件でもめるのは一番面倒です。
受注側も支払い条件を最初に確認する
法律が守ってくれるから何も確認しなくていい、というわけではありません。
受注する前に、
- いくらなのか
- いつ締めなのか
- いつ入金されるのか
- 検収条件は何か
- 振込手数料はどうするのか
を確認しておく。
これは普通の商売として重要です。
「御社の支払サイトは?」を聞いていい
初めて取引する会社なら、見積もり段階で支払い条件を聞いて問題ありません。
むしろ後から、
「うちは翌々月末です」
と言われる方が困ります。
金額だけではなく、いつ現金になるかまで含めて取引条件です。
取適法対象外なら何をされても仕方ない?
もちろん、そういう意味でもありません。
取適法の対象外でも、契約や民法、独占禁止法、フリーランス法など別のルールが関係する場合があります。
また、法律以前に、極端に長い支払い条件や一方的な値下げを受け入れるかどうかは事業者自身が判断できます。
「法律で禁止されていない=良い取引条件」ではありません。
法律を武器にケンカする必要はない
取引先へいきなり、
「それ取適法違反ですよ」
と言う必要もないと思います。
まずは、
「2026年から支払いルールが変わっていますが、弊社との取引条件は対象になりますか?」
「振込手数料の扱いを確認させてください」
「支払期日について確認させてください」
くらいで十分です。
大きな企業ほど、経理や法務側ですでに対応していることもあります。
問題が解決しない場合は相談窓口もある
取適法については、公正取引委員会や中小企業庁が情報を公開しています。
適用対象なのか分からない。
実際の取引が問題なのか判断できない。
そういう場合は、公式の相談窓口などを利用できます。
取引先との関係があるため、自己判断だけで動きにくい場合にも役立ちます。
受注側は「売上」だけでなく「回収」まで見る
100万円の仕事を受注した。
数字だけを見ると売上100万円です。
でも入金が3か月後なら、それまでの運転資金は自分で用意する必要があります。
逆に、同じ100万円でも納品時や翌月に入金されるなら資金繰りはかなり違います。
事業では「いくら売ったか」と同じくらい、「いつ入金されるか」が重要です。
安い案件+遅い支払いは二重にきつい
制作単価が安い。
修正が多い。
さらに支払いが遅い。
この組み合わせは受注側にかなり負担があります。
売上だけで案件を判断すると見落としやすいところです。
取引先を選ぶときは、
- 単価
- 工数
- コミュニケーションコスト
- 支払サイト
- 支払いの確実性
まで含めて見る方がいいでしょう。
まとめ|「企業間だから支払いは遅くて当たり前」ではない
2026年1月1日から、旧・下請法は改正され「取適法」として施行されています。
取適法の対象となる取引では、委託事業者に、
- 発注内容などを明示する
- 受領後60日以内のできる限り短い期間に支払期日を設定する
- 取引記録を作成・保存する
- 支払遅延時に遅延利息を支払う
といった義務があります。
さらに、
- 発注後の代金減額
- 振込手数料を代金から差し引く
- 手形払い
- 価格協議に応じず一方的に代金を決める
なども禁止対象になっています。
もちろん、すべてのWEB制作取引へ自動的に取適法が適用されるわけではありません。
取引内容や企業規模などによって対象かどうかを確認する必要があります。
それでも、
「企業間取引は支払いが遅くて当たり前」「振込手数料は受注側持ちが当たり前」という商慣習そのものが見直されていることは知っておいた方がいいでしょう。
WEB制作も立派な事業です。
制作して納品するところだけではなく、適正な金額を決め、条件を残し、期限どおりに代金を回収するところまでが仕事です。
見積金額だけではなく、支払い条件も契約前に確認する。
受託で仕事をするなら、2026年はそこまで含めて取引先を見る必要がありそうです。

